Azure D'Or

Renaissance


イギリスのプログレバンドであるルネッサンスの8作目。1979年作品。
邦題は『碧の幻想』

ルネのこの8作目を語る時、時代背景を考慮しなくてはならないだろう。
79年というのは、一時代を作ったプログレは既に下降期にあり、ユーロビートが巷を席巻し、NWOBHM(New Wave Of British Heavy Metal)の息吹を感じていた時だった。
当然、ルネッサンスも変革を求められていた。
そして出した結果がこのアルバムである。

私は、このアルバムは『Novella』の次に好きだ。
アニー・ハズラムのボーカルがたっぷりと堪能できるからだ。
ボーカルパートが多く、かつ声が前面に出いる。しかも声のレベルが大きい。
女性ボーカリストの中で、アニー・ハズラムが1番だと思ってる私にはうってつけだ。
プログレバンドとして生きるより、ボーカルバンドとして生きる方向を探ったのだろう。
その背景に、前作『SongFor All Seasons』からの“Northern Lights”のスマッシュヒットがあると思われる。

他でも書いたが、音楽は人の感性にどう訴えるかで評価が決まる。
私には、アニーの声があればいい。
聴いてて、こんなに感動する声はない。何時間聴いても決して飽きることはない。
力強く儚げで、凛とした張りがあって柔らかい。
低音はソフトで包み込むような包容力があるのに、高音は空高く翔け抜ける。
相反する特徴の共存を、自然にやってのける。
さらに語尾がはっきりしていて清潔だ。
奇跡的に思えてならない。

『Azure D'Or』はある意味、プログレというよりも、シンフォニックでPOPなHRと言った方が近い。
ルネの特徴であった、生のオーケストラは、シンセによるオーケストレーションにとって変わり、曲は短くなり、キャッチーになった。
ピアノが減り、エレキギターのパートが増した。Gのマイケル・ダンフォードの比重が高くなった。
崇高さや格調高さは、親しみやすさと引き換えに減ってしまった。

が、この変化は嫌いじゃない。
KANSASやSTYXのアメリカン・ハード・プログレが大好きになっていた私には、アニーの声でRockっぽいサウンドが聴けるのだから。
明るく、カラフル、それでいてプログレも忘れず、フォーク・ロックもきちんとあるシンフォニックなHard Rock。
よりコンパクトで、ルネッサンスの真髄を凝縮化したと言えよう。

『Azure D'Or』は、残念ながら売れなかった。あまりにも時代に迎合しすぎて変化したためだろうか?
こんなに素晴らしい作品を評価されないなんて、もったいない!!
私は『Novella』以前が後追いであり、それほど以前のルネッサンスに思い入れがなかったためもあるけれど、売れなかったために下降&解散に追い込まれたから、本当に残念でならない。
その後のプログレちっくなゴシック・メタルを聴いても、ルネッサンスは彼らとさほど変わらないじゃないか。
もしも『Azure D'Or』が売れていたら。。を考えずにはいられない。



曲ごとの紹介

1 Jeykle&Hyde アニーの声の魅力がたっぷりと伝わってくる佳曲。
賛否両論あるようだが、私の大好きな曲だ。
アナログのアンプで聴いてた時、サビでメーターの針の振れ具合がぐんぐん上昇していた。突き抜け具合が爽快だ。この声があるだけで、もう最高になる。
リズムは、なんとベースラインがパンクっぽかった。。でも、このうねりが好きなのよね。
ヘヴィーめがお好きな人にはぜひ。
2 The Winter Tree この曲のキーワードである“Winter”が、そのままアルバム全体のイメージになっている。そう、雪に覆われる白のイメージ。そこにそびえ立つ1本のもみの木。
この曲でも味わえる湖水地方の大地の広がり感が好きだ。
3 Only Angel Have Wings シンフォニックで壮大なヨーロッパ的な広がりのある曲。
ボーカルはジョン・キャンプ。
4 Golden Key ピアノをフューチャーした、一番これまでの雰囲気を持った曲。
アニーの可憐で伸びやかな歌声は、何にも変えられない。アニーがボーカリストとして唯一無二の存在であることを強烈にアピールしている。
間奏も反復が多くてルネッサンス調だが、それでも最小限に留めている。
余韻を残すピアノのエンディングも秀逸。
5 Forever Changing 珍しくドラマーのTerence Sullivanによる曲。
イントロの哀愁あるアコギがフォークロックで、ルネッサンスのもうひとつの魅力を伝えてくれる。
アニーの儚げで悲痛な低音が魅力。
エレキギターのゆったりしたソロが今までにないものだが、こうしたギター主体の曲はいい。
6 Secret Mission 明るくダイナミックなイントロが、新しいルネッサンスの幕開けみたいだ。
が、歌メロがちょっとトーンダウンで惜しい。サウンドがもたついている。アニーの声でカバーされてはいるが。
決して悪くないが、もっとフェスティバルの始まりみたいにアップテンポで突き抜けてほしい。Northern Lightsみたいに。
7 Kalynda(A Magical Isle) しっとりしたフォークロック。エレキギターによる誘導も効果的。
この歌詞だけがラブソングで、救われる思いがする。
8 The Discover もろプログレなインスト作品。
いろんな場面展開や変リズムがあって盛りだくさん。
エレキギターによるスパニッシュ風味な場面が好きなので、2倍あれば良かったな。
ピアノが入ると、途端に荒野から神殿に導かれたような格調高さが出るのがまたいい。
9 Friends ジョン・キャンプのリードベースが味わえる。
が、曲は中途半端。開放的というか、締りがないというか。
コーラスの分厚さが、その後のEnyaに影響を与えたかも。
10 The Flood At Lyons 緊張感があって、華がある。曲の展開は感動的!
アニーの表現力は素晴らしい。
サビで雄大に流れる大河のように、しっかりした存在感を持ち、何にも影響されることなく、すべてのことを受け入れる許容力があるようだ。
リヨンの洪水という邦題で、あまりいい内容ではないが、むしろすべてのことを洗い流し、リセットされた上で新スタートする、“再生”を感じさせる。
勇気づけられる。

この中で、1、4、5、10がいい。


今回、レビューを書くのに当たり、『Azure D'Or』を5回は通して聴いた。
今でも色褪せない曲の輝き、躍動感に驚いた。やっぱり飽きない。
稀代の歌姫、Annie Haslamに乾杯!!